相関図①|成実と節子、母娘が抱えた秘密と恭平との出会い

それにしても見事なキャスティング。冒頭シーン、何事かをしでかした雰囲気のまだ若い女性(中学生?)が、その後、杏さん演じる川畑成美であることは誰の目にも明白。
お父さんにも打ち明けることのできない秘密を母との間に共有することになったの。お母さんは風吹ジュンさん演じる川畑節子。
ストーリー自体はシンプルに良くまとまっているから、一度見たら誰が何をやったのかは明らかなんだけど、誰かを刺してしまった娘、成実に対する母のあの行動、映画を2回観る人にとっては、かなりの違和感よね。
さらに、大人になった成実は、優雅に美しい海の中を泳いでいるんだから。不自然極まりないんだけど、でも、それは間違いなく意図的にそのように描かれたのね。
後にテーマになる「全てを知って」どのように生きるかという覚悟や選択をした結果の一つとして描かれていたのかな。
罪の意識や悲しみがあふれだしそうになるところが、ほんのわずかに描かれるるんだけど、周りの人の目からは何も真実が見えていないっていう現実を、リアルに描いていたような気がするの。
そんな一人の女性が起こした過ちが、様々な人の人生に影響していく。その中の一人が成実の従弟、まだ小学生の柄崎恭平君。
彼は夏休みを成実たちの家で過ごすことになったのね。主人公湯川学は、恭平君との電車の中での出会いを通して深くかかわっていくことになるの。
湯川先生は、このシリーズの中で子供嫌いという設定。子供と接すると、蕁麻疹がでるようなの。でも、なぜか恭平君との出会いでは蕁麻疹が出なかった。
これって、運命づけられた出会いだから?とかいろいろ思うんだけど、でも、勉強嫌いを自認する恭平君だけど、彼の好奇心や口を突いて出てくる言葉は、まあまあ聞いててなるほど..と感じさせる部分があるのよね。
ママ的には、彼が湯川先生に認められるほど理論的に話を展開しているかというと、別にそれほどでも..という感じもするんだけど、湯川先生はその子の未来に何かを感じ取ったのかもしれないわね。
これから抱えることになる運命とか含めて、「浅くはない」何かを感じたのかも。
舞台となる架空の町、玻璃ヶ崎の駅に、川畑節子とその旦那、重治が迎えに来た。ほんといいお婆さんとおじいさんという風だから、この二人が、永遠に封印しなければならない過去を持っているなんて、はた目には想像できないのよね。
この時まで、恭平君の日常はいつもと変りなく、平穏無事だったんだけど、もう未来に起こることにむけての出会い、湯川先生との関わりはどんどん深まっていくのよね。
海底鉱物資源の開発計画説明会で成実と湯川のうすーい接点がまず描かれる。ここで再び感じる違和感は、成実の過去に対して、この説明会場での成実の姿。
開発に反対する者の立場から凛としたものすら感じるのよね。2回目見た時にはまだ違和感を払えなかったんだけど、さらに見返すうちに何となくわかったような気がしてきたの。
彼女の「この海を守らなければならない」という思いが、どれほど強いものか。その背景には、過去の自分の過ちがあったの。
けれど、その出来事は、ある人が決して口にしてはならない沈黙を守ってくれたおかげで、表向きは自分とは無関係のこととして片付けられ、世の中ではすでに終わった話として扱われていたのよね。
さらに、彼女はその人が玻璃ヶ崎の出身で、心の底からその地を愛していた等いことまで知っていたようなの。彼女は、もしかするとその人に返しようのない恩を、何とかその海を守ることで返そうとしていたのかもしれないわね。
時折、「その人のため」という思いが途切れた時に、彼女はとてつもない不安に襲われているように描かれていたわ。
刑事が家にやってきたと昔の友達が告げてきたときよね。そう、彼女は決して、過去の自分の過ちを忘れたわけではなかった。
むしろ、とことん向き合った結果、今できることというのを自分なりに決めて、必死になってそれを実行しようとしていたのかもしれない。
論理で正解を導いていく湯川先生が「負けた」とつぶやくシーンがあったと思うけど、今、湯川先生が足を踏み入れようとしていた人間模様は、論理を超えた判断やその結果を見せつけてくることになるの。
次の違和感ね。川畑夫婦が営む旅館、緑岩荘に現れた元刑事、塚原正次。女将さんである節子に、「昔のことをほじくり返すつもりはない。話だけでも聞いてもらえませんか」というんだけど、この時の心理というか、彼がなそうとした「選択」はなんだったのかしら。
彼が仙波を捕らえた時の状況からすると、もちろん仙波は自首を演じたわけではなく、とても巧みに、わざと捕まったって感じだった。
塚原元刑事からしたら、見事にはめられたっていう状況だったわよね。仙波は自らの過ち(結婚していながら節子と関係をもった)ことを悔いたというのももちろんあるだろうけど、それ以上に生まれてきた成実のことを愛していた。
現在の節子の夫である重治が節子や成実を思う気持ちは、今も、過去も、相当にすごいものだったと思うんだけど、その重治よりも、節子は仙波に惹かれていたっていう設定は、仙波という人はとてつもないレベルで愛を向けていたのかもって感じさせるの。
だから、そんな仙波にとって、成実の代わりに刑に服し、ある意味自分の過去の償いにあてたという気持ちもあったと思うから、逮捕されることに関しては、何も不満に思うことはなかったと思うのよね。
塚原は、そんな詳しいことはもちろん知る由もなく、ただ、誤認逮捕をしてしまったという思いにさいなまれていたのかもしれないわね。
そして、その思いを、少しでも軽くしたいという気持ちが働いていたとしても不思議ではないわ。だから、彼の言葉、ほじくり返すつもりはないという言葉に嘘はなかったと思うのよね。
でも、そうは思えなかった人物がいたのよね。川畑重治、彼は、この事件の真相が、今、表ざたになるのではないかと危機感を抱いたに違いない。
相関②|湯川の実験と再捜査、そして恭平を巻き込む花火と煙突
吉高由里子さん演じる岸谷美砂登場。なんだか湯川先生とは、結構出来上がった関係のようだから、過去の絡みを一応調べてみようと思ったんだけど、岸谷美砂はここで初登場のようなのね。
でも当然、裏設定では過去色んなやり取りがあるはずよね。捜査に対して無関心な湯川先生を引き込むために、彼女が放った言葉は「これはとても不思議な事件なんです」って。
屋外での一酸化炭素中毒死…岸谷は一生懸命「不思議でしょ!」感を出そうとするんだけど、誰が聞いても対して不思議な感じはしないのよね(笑)。
先生が放った一言は「帰ってくれ」(笑)。先生はそんなことよりも恭平との実験のことで頭はいっぱい。
海で恭平と、手作りロケットの発射実験を繰り返し繰り返し行う湯川。恭平君もこの先何が起こるのかまだ知らされないままだけど、既に先生に心わしづかみにされているから、同じことを何度も繰り返すという単調作業だったけど、この先何が起こるんだろうって興味が尽きなかったのね。いわれるがままに一生懸命にやってたわ。
あとでわかるんだけど、恭平君が重治じいさんと昨夜やっていた花火。恭平にとってはホントに良いじいさんだったから、爺さんが言うがままに、花火の準備を手伝っていたんだよね。
大人の言うことをとりあえずやるしかない子供たち。湯川先生は恭平のことをおもっていろいろやっていたんだけど、重治じいさんは、あの花火の準備の時、恭平のことを何も考えなかったのかな。
恭平からしたら、どちらも大好きな人の指示だから、喜んでやっただけなんだよね。
湯川先生が恭平と緑岩荘にもどってきた。屋上から降りてくる捜査員を見て、「屋上に何があるんだ」とつぶやくと、恭平は間髪入れず「煙突だよ」って。
もしかして、このほんのわずかなやり取りの中で、先生は恭平が何で屋上に煙突があることを知っているんだ?恭平が煙突をふさがされたのか?とか、見抜いてしまったの?
ところで、仙波英雄と塚原元刑事の関係なんだけど、誤認逮捕ということで負い目を感じた塚原さんがその行方を追い続けていたというのは理解できるんだけど、服役後ホームレスとなり体調を崩していた仙波さんをホスピス入所まで面倒見るっていうのは、なかなかできることではないなと感じるの。
湯川や岸谷、さらにその上司、草薙俊平は仙波と川端一家、それに殺された三宅伸子の接点について推測を進めていく。
もう誰が犯人かわかっているんじゃないかと問う岸谷に、湯川は「川畑重治だ」と言い切ったの。もちろんそれにウソや誤りはないと思うのよね。さらに、湯川先生は確かめることが必要だとも言っていたし。
でも、当然、罪はないにしても柄崎恭平君の関与がとても気にはなっていたはず。でも、その点については、配慮こそしたものの、不用意にその存在と事件実行の関与をほのめかすようなことはしなかった。
その直後のシーン、湯川先生と成実は、調査船の上で少しばかりの会話をもつの。恭平君と行った実験、玻璃ヶ浦の海の底を見て感動しなかったかって問われて、「素晴らしかった」って言っていたわよね。なんでウソをついたのか。だって、恭平君に独占されて、先生は映像を見ていなかったものね。なんでウソをついたのかしら…ここはちょっと推測もたたないまま、シーンは移り変わっていったの。
相関③|成実の罪は暴かれず、重治の嘘の自供
中学時代の部活動の仲間からの連絡で、警察が自分の住所確認をしていることを知った成実。もう自分の過去が暴かれてしまう。本人も、見ている誰もがそう思うわよね。
でも、エンディングまで見た人は知ってるわよね。成実は逮捕されることはなかったの。何々?時効とかそういう話?とかちょっとママにはよくわからないんだけど、でも、三宅伸子殺人事件はすでに解決済みということなのよね、きっと。
だから、岸谷美砂がこの捜査を依頼されたとき、特別な非公式任務だ。。とか言われていたと思うんだけど、彼女が調べたことというのは、よくある刑事ドラマで警察や刑事が一堂に会して報告会みたいなところで共有する必要はなかったということなのかしらね。
もちろん、今回の塚原正次元刑事が殺害されたことに関して得られた情報は、関係者に共有されたんでしょうけど、過去の三宅伸子殺害事件に関することは、きっと誰にも共有されることはなかったんじゃないかな。
落ち込む節子と成実に重治は「湯川さんは気づいているよ。もう無理だ」とかこのタイミングでいうもんだから、ママはてっきり成実のことが警察沙汰になるんじゃないかと冷や冷やしたわ。
重治は自首し、ボイラー不完全燃焼と部屋の管理ができていなかった過失、それに妻節子と共謀しての死体遺棄という線で自供を行ったようね。でも、湯川はそれはウソで、重治単独の殺人だと断言するの。
普通に言えば、過失の方が罪が軽くなるから、そのようなウソの自供をしたっていう風に考えるんだろうけど、湯川先生が示した理由は違ったの。
それは「秘密を守る必要があったから。あの家族は全員が秘密を抱えていた」と。重治が節子と成実を欺いていたというのだけど、それは何?
それは、川畑重治も、成実が三宅伸子を刺したということを知っていたということよね。知っていたけど、知らないふりをしつづけていたということ。
川畑重治が塚原正次を殺害するための理由。それは川畑成美が伸子を刺したという事実を表に出さない事だった。
しかし、三宅伸子殺害事件は、仙波という犯人によるものということで解決しており、成実が関与した事件そのものが存在しない。
これによって重治が成実をかばうために犯行に及んだということは立証されなくなる。全てを知った湯川だったけど、すべてを知って真理にたどり着くという彼の持ち前の理論が「負かされてしまった」瞬間ね。
川畑成美が三宅伸子を殺害した理由、それは、自分が仙波と節子の間に生まれた子であるという事実。その事実につながる写真を取り戻すために伸子を殺害したのかって一瞬思ったけど、違うわよね。伸子が奪っていったのは、川畑家の三人が仲良く映っているだけの写真だもの。
伸子はそもそもあれ何に使うつもりだったの?っていうのがママにはいまいちよくわからなかった。
ところで、成実は自分が川畑重治の子どもではないということを、幼いころ知ってしまっていたのね。そして、知っているということ自体を節子や重治には話していなかった。
だから、成実は、節子や重治にはわからないようにではあったんだけど、実の父のことを思っていたのね。そして、自分をかばって投獄された仙波のことは事件後、母節子から説明を受けたんだと思う。
相関④|重治の告白と「負けだ」と呟いた湯川
捻じ曲げられそうになっている人生を救うために、湯川先生は玻璃ヶ浦に戻る。逮捕された川畑重治に面会に行き、自分の推理の全て、家族3人が抱えていた秘密の全てを重治に伝えたの。理論派らしく、事実を淡々と。でも、重治は全てを知っていながら、成実と節子を受け入れ、さらに成実は実の父親への思いも大切にしていることを知っていたはずで、それはそれはつらいコトだっただろうと同情的な言葉をかけたシーンもあったわね。でも、重治さんは一蹴するの。「さすがは学者さんだ。でも、あなたがおっしゃったことはまるで見当違いだ」と。私は節子にも成実にも、何の秘密も持っていませんっていうの。秘密を持っていたことを認めると、すなわち、成実が起こした事件のことを、知ってて知らないふりをしていたということを認めることになるから、もう事件は解決しているとはいえ、成実の身に何かが怒ってはいけないという念には念を入れた配慮だったのかしら。さらに付け加えて言っていた、「なにもつらいことなどない」というのは、ほんとにそうだったんでしょうね。最後に先生に促されるように、恭平君に対する想いをしゃべらされていたわね。「せっかくの夏休みをごめんな」と。
まとめ|湯川が見たもの、家族が抱えたもの
『真夏の方程式』は、単なる殺人事件の謎解きじゃなかったわね。家族が抱えた重い秘密、そして一人の科学者と少年の出会い。湯川先生は、理論では割り切れない感情や沈黙の中で「負けだ」と呟いたけれど、その敗北こそ人間としての成長を映していたのかもしれない。秘密は隠されても、真実は人の心に残り続ける。だからこそ「すべてを知ったうえで、自分が進むべき道を決める」という湯川の言葉が、観る者の胸にいつまでも響くのよね。
今日も最後までご覧いただいて、ありがとうございます。
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