金塊を巡る争いは、勢力図だけで語れるものではなさそうな感じです。
杉元、アシㇼパ、鶴見、それぞれが背負っている“理由”があるからこそ、単純な善悪に落ちない物語になっています。
今回は、囚われた杉元の脱出劇と、寅次との約束、そしてそれぞれの「役目」という言葉が示すものを、物語の流れと共に振り返ってみたいと思います。
相関図①|不死身の杉元

不死身の杉元。冒頭の戦闘シーン。敵陣に必死の形相で向かい走る杉元。
不死身って言うんだから、鉄砲の玉を食らうこともないってイメージしてたら、そうじゃないのよね。
彼は、鉄砲の玉をくらうの。でも、くらってるのに倒れない、くらっても死なずにいる。
そんなことあり得るのかなって思い返すと、やっぱり思い出されるのは、中村天風さん。
もう何年も前に天風さんの本は何冊か読ませていただいたんだけど、なんとなく、時代的に近いんじゃないの?って感じで、天風さんの言葉が思い返された。
印象的だったのは、橋の向こうの袂から敵兵が撃ってくるんだけど、確か、天風さんは、その人のことをも助けるんだというような想いを抱きながら突っ込んでいってたような記憶があるの。
その時、彼が思っていたのは、助けようと思っている相手の弾がなんで自分に当たることがあろうか、あるはずないじゃないかって。
確かそんなような信念だったと記憶するんだけど、死の恐怖に取りつかれないような心の持ち方ってこんな状態をいうのかな。
もちろん、天風さんはこの物語の主人公杉元とは無関係。
モデルになったのは原作者の曽祖父に当たられる方といわれているわね。
杉元のケガからの奇跡的な回復力や、あの激戦の中を突っ走っても命を落とさない、これまた奇跡的な強運。
一見現実離れしているようで、でも、実際にそんな奇跡的な活躍をした人がいるという事実も、ママ的にはこの映画に惹かれる一つの要素だった。
この作品の中では、北海道や北の国々の大自然もふんだんに描かれるんだけど、ヒグマにはその脅威の象徴みたいな感じを受ける。
その脅威に対して、どのように対峙していけばいいのか熟知した存在として、アシㇼパさんの姿が描かれる。
アシㇼパちゃんがこの大自然の中で生きていく術というのは、アイヌの人たちの村の中で学んだ智恵であったり、お父さんから受け継いだものもあるのよね。
でも、アシㇼパさんのオリジンは、純粋なアイヌではないみたいなの。
お父さんはポーランドの男性とアイヌの女性の間に生まれた子。そのせいか、アシㇼパさんの目は青みがかっているのよね。
アシㇼパさんのお父さんの生い立ちも、その後にアシㇼパさんや杉元がたどっていくかれらの道に影響しているような感じを受けるわ。
アシㇼパさんと杉本の出会いは、隠された莫大な金塊の謎を解き明かすための必然のように描かれた。
杉元は、その金塊のありかを突き止めるために、脱獄囚の体に彫られた暗号が必要だったの。
その金塊の行方を知るアイヌの人たち7人が何者かによって殺され、その中に、アシㇼパさん7が「アチャ」と呼ぶ彼女の父親も含まれていたそうなの。
ところで、映画の中では、アシㇼパさんがオオカミに助けられるシーンがあるんだけど、このオオカミは、アシㇼパさんが子供の頃に村の中で飼っていたオオカミね。
杉元とアシㇼパさんが一緒にいるところに、そのオオカミが最初に現れたのは、ヒグマを止めようとするシーン。
アシㇼパさんにとっては、過去に悲しい別れをしたそのオオカミとの再会。
その戦闘シーンや杉元がアイヌの猟師に伝わる捨て身の戦い方で、そのヒグマを何とか退けるシーンはすごい迫力なんだけど、それとは別に「なんだこのこは?」って別の意味の迫力を感じるのは、その杉元の戦闘シーンを見つめるアシㇼパさんの目。ただものではないって感じね。
ところで、杉元がヒグマを倒したその技、和人にはできないってアシㇼパは言っていたわね。杉元のルーツや生まれ育ちは和人そのもののような感じだけど、何か意味あるのかな。調べてみても、特にルーツなどに関わるものではなさそうなんだけど、少なくとも、この戦いの中で、二人の気持ちに少し通い合うものが生じたのは間違いなさそうね。
アシリパさんが杉元にお父さんのことを話してる。お父さんは、アイヌの7人が惨殺された、そのうちの一人なんだって。
でも自分の父を含むアイヌ7人を殺害した人物が網走監獄にいるというのをアシㇼパさんはその時まで知らなかったみたいね。
杉元は言っていた。監獄に収監されているその男、金塊が見つかってしまえは用済みの男になる。
金塊を見つけることがおやじさんの敵討ちになるんだって。
こんな因果があって、杉元とアシㇼパさんはその後、行動を共にすることになるのね。
アシㇼパさんは一応、「杉元、お前は何でお金が必要なんだ」って尋ねているんだけど、杉元はこの時点では「とにかく必要なんだ」って、それだけだったのよね。
この時点で、その杉元と行動を共にしようという決断をするんだから、彼女の父親の無念を晴らしたいという思いは相当なものだったに違いないわよね。
だって、この時点の杉元、アシㇼパさんにとっては、かなりやばいやつよね。
このお話のエンディング近く、杉元が、幼なじみの女の子、それも、かつては相思相愛だったと思われる女の子との再会を果たすシーンがあるの。
その時の彼女は目を病んでいて、ほとんど見えなくなっていた。
その時にね、その彼女が、杉元のにおいや雰囲気を感じ取って「やばいやつ」「こいつ誰?」って違和感を感じるほどに、杉元はやばい空気を出していたのよね。
もちろん、彼が従軍したときにその雰囲気を身にまとってしまって、それ以後、かれは、元に戻ることができなかったって言う証のようなものだと思うんだけど。
アシㇼパさんは、かなり勘も鋭い女性だと思うんだけど、その感覚を持っていながら一緒に居ようとしたのが、ママ的には違和感とは言わないけど、彼女の凄く強い想いというのを感じるのよね。
さらに、この時、アシㇼパさんは杉元に言ってるの。
「これ以後、人殺しはなしだからな」みたいなこと。
でも…. まあ、その言葉が守られたとは言いにくいようなことがたくさん起こるんだけど、それを黙認できた理由というのも、やっぱりお父さんへの想いの強さゆえだったのかな…このあたりは、別の作品ももう一度よく観てみないと、ママ的にはまだ頭の整理がついていない。
相関②|小樽へ行け
刺青の男たちを探し出して早々、二人の脱獄囚を捕らえた杉元とアシㇼパさん。
そのうちの一人が白石由竹という脱獄囚。
かなりの情報通で、網走刑務所の脱走に関わる情報も杉元たちに伝えていた。
白石が言うには、刺青は全部で24人分。刺青を彫られた脱獄囚の中にリーダー的な男がいたって。
それが、かつての新選組副長土方歳三。彼がなぜ、脱獄の際にリーダー的な立場をとったのか、wikipediaはじめ、情報をみてみるに、どうやら金塊を奪った男と似たような企みをもっていたためみたい。
その大きな資金力によって、北方からの脅威に備えようと、その地域に独立した国家のようなものを作ることをイメージしていたみたいね。
脱獄囚たち各個人にとっては、ただその監獄から抜け出せて、それなりのお金を手に入れることができればよかったに違いない。
ただ、大きな目論見をもつものにとっては、その資金の全てを手に入れることが絶対に必要で、そのための手がかりとなる男たちを統率しておく必要があったという感じかしらね。
脱獄した後、どうすればいいのかについて、この脱獄を首謀した「のっぺらぼう」は、「小樽に向かえ」という指示を出していたみたい。
そりゃあそうよね。せっかく、金塊のありかを記した情報を監獄の外へまき散らしても、それが文字通り散り散りになってしまったのでは、金のありかがわからなくなってしまう。
だから、脱獄した囚人たちの心理も読み解いて、大勢の人ごみに紛れて暮らすことができるように、当時の北海道の中では人が多いといわれていた小樽をその地として指示していたという感じなのかな。
場面はかわって、杉元が白石を最初にとらえたその場所を銃撃してきた男がいた。
杉元と格闘の後、逆に沢に転落してしまった尾形百之助。
彼のところに、彼がそのもとから逃れようとしていた鶴見篤四郎の隊がやってきた。
尾形と離れた杉元、アシㇼパは、山の中を捜索していた谷垣源次郎ら第七師団の兵に追われることになる。
この時の第七師団からやってきた男たちは、鶴見中尉を中心とした軍の一部隊。
尾形はその一員ではあるものの、鶴見の完全な配下というわけではなく、どこか距離を置いた存在として描かれていたよね。
沢に転落した尾形を見つけた鶴見は、瀕死の尾形の指の動きを読み取り、「ふじみ」という言葉から杉元の存在に気づく。
ここで鶴見は、杉元が刺青人皮を握っている可能性を確信する流れになっていた。
一方そのころ、谷垣らは雪山で杉元とアシㇼパを追跡している。
追っ手に追い詰められた杉元だったんだけど、彼は、ヒグマの巣穴に飛び込むという、アシㇼパの父しかやったことがないという秘策に打って出た。
もともと、そんな危なっかしいことできるかって、そんな秘策を以前にアシㇼパから聞いたときには思っていた杉元。
でも、「不死身の杉元」は、死の恐怖を克服して、生き残れる可能性のあることなら躊躇なく何でもやるのよね。
杉元はアシㇼパから教わった熊の習性を利用し、兵士たちを熊の巣穴へと誘導する。
結果として、谷垣を除く兵士たちはヒグマに襲われ命を落とすことになる。
谷垣はアシㇼパを追って森の中へ入ったんだけど、そこでオオカミ――レタㇻに遭遇する。
レタㇻはかつてアシㇼパが村で育てていた例の狼で、群れへ戻った存在。そのレタㇻが谷垣に襲いかかり、アシㇼパは難を逃れる。
その後、杉元はアシㇼパのアイヌコタンへと身を寄せる。
ここで初めて、戦場とは対照的な静かなアイヌの暮らしが映し出される。
祖母フチや村の人々との交流が描かれ、アシㇼパがどんな世界で育ったのかが具体的に示される場面でもある。
一方で、尾形を回収した鶴見は、負傷した尾形を連れ帰りながらも、杉元の確保を最優先事項として動き始める。
第七師団は、金塊を軍資金にしようとする明確な目的を持った勢力であることが、ここでよりはっきりする。
そして舞台は、小樽へと移っていく――。
相関③|静と狂気のあいだ
アシㇼパさんが杉元を伴って村に帰ってきた。
村で出迎えてくれたのは、アシㇼパさんのお婆さん。
アシㇼパさんが初めて連れてきた客だからと言って、あれこれ詮索することもなく、「もてなそう」と言葉少なに迎える。
これまで雪山で繰り広げられていた銃撃や追跡の緊張がゆるむのよね。
この作品って、常に誰かが誰かを追い、誰かが誰かを疑い、誰かが誰かを利用しようとしている。
その“武装された関係”の中で、お婆さんの佇まいはまるで異世界。
しゃべらない。探らない。ただ受け入れる。
ママの日常を振り返ると、日常って、しゃべって、しゃべって、相手の反応を見て、そこから自分が受け入れられているかどうかを確かめようとするでしょ。それってある意味、防御なのかな。でもこの人は違う。何も持たない。何も構えない。なんか穏やかねえ
一方で杉元を追い詰めた第七師団の兵士たちのうち三人はヒグマに殺され、アシㇼパを追っていた谷垣も行方不明になる。
その捜索のため、鶴見篤四郎率いる第七師団の部隊が雪山へ入る。
その中で起きたのが、月島基による和田大尉射殺。
映画だけ見ていると少し唐突に見えるかもしれないけど、構造ははっきりしている。
和田は中央の命令系統側の人間で、鶴見を危険視している。
鶴見を排除するため月島に射殺を命じる。でも月島は撃たなかった。逆に和田を撃った。
月島は軍の規律よりも鶴見を選んだのよね。
第七師団という組織の中で、すでに忠誠の矛先は“国家”ではなく“鶴見個人”に向いている。
月島は感情を表に出さない男だけど、行動は一貫しているみたいね。
鶴見を中心に回る世界。その秩序を壊す存在は排除する。それがあの一発の銃声だった。
場面は小樽へ移る。
人が多く、情報が錯綜し、刺青囚人が紛れ込むには都合のいい港町。
けれど目立つ男は目立つ。杉元はやはり目につく。
そこで二階堂兄弟との衝突が起き、杉元は鶴見の前に連れてこられる。
ここが杉元と鶴見の初対面。
互いに名は知っているが、直接向き合うのは初めて。
鶴見は一切の迷いなく自分の構想を語る。
金塊を軍資金とし、第七師団を掌握し、北海道を制圧し、資源開発を進める。
森林を切り開き、アヘン栽培も視野に入れる。
その利益で軍人や遺族を救う。
戦争で消耗品のように扱われ、何も報われなかった者たちのために、新しい秩序を作る。それが彼の大義。
聞いている限り、彼は私利私欲だけで動いているわけではなさそうなかんじ。信じていいのかな?
そして杉元に協力を持ちかける。生き残る道は自分に付くことだと。
軍事力を背景にした圧倒的優位の立場から。
でも杉元は従わないのよね。
そもそも彼の目的はもっと個人的で、もっと限定的。梅子の目を治すこと。
そのための金塊。
鶴見の描く国家規模の構想とは桁が違う。
そして囚われの杉元を助けに向かうアシㇼパと白石。
白石は現実的で、「無理だろ」と言う。でもアシㇼパは言うのよね。
杉元は死の恐怖に支配されない。最後まで諦めない。だから“不死身”なんだって。
不死身というのは肉体が頑丈という意味じゃない。
死ぬ可能性を計算に入れないということ。恐怖に呑まれないということ。
戦場を生き延びた男と、自然の中で生きる少女。その二人の信頼がここで固まる。
鶴見の国家構想。杉元の個人的目的。そしてアシㇼパの覚悟。それぞれが違う方向を向いているからこそ、この争奪戦は単純な善悪に落ちない。
相関④|杉元、アシㇼパ、寅次、それぞれの想いと決心
旭川の第七師団兵舎に拘束された杉元は、鶴見中尉と正面から対峙した。
鶴見は金塊を軍資金にし、第七師団を中心に北海道を掌握する構想を語り、刺青人皮を持つ杉元に協力を求めた。
しかし杉元はそれを拒んだ。
その夜、二階堂兄弟が独断で杉元の始末に動いた。
格闘の末、片方は命を落とす。
杉元は自らも致命傷を負ったかのように見せかけ、その場を収めた。
鶴見の前で人皮を差し出す代わりに治療を求めると、鶴見は刺青人皮の確保を優先し、杉元を生かしたまま移送させる判断を下した。
アシㇼパは杉元の生存を信じ、白石と共に救出に動いていた。
三人は再び合流し、金塊争奪戦は次の局面へ進んでいく。
刺青人皮はまだ一部に過ぎない。土方一派も動き始め、鶴見も退く気配はない。
構図は三つ巴へと固まりつつあった。
さて、囚われの身から自由になった杉元、それに助け出したアシㇼパさんに、一時の静寂が…と思ったんだけど、アシㇼパが杉元の頭をひっぱたいていた。
杉元がアシㇼパさんの気持ちを理解せず、村を離れようとしたことを怒っていたのね。
アシㇼパさんは、一人軽率に突っ走った杉元に、なぜそうする必要があったのか問い詰めた。
杉元は寅次や梅子への想いを語る。
回想の中で、寅次と梅子の結婚式の日の様子が描かれた。
寅次は、その日戻ってきた杉元に「なんで戻ってきたんだ」って杉元を投げ飛ばそうとするんだけど、逆に投げ飛ばされ、複雑な表情をしていたように見えた。
寅次の「なんで戻ってきたんだ」って、額面通りに受け取ってはいけないような気がした。
寅次も、本当なら、梅子は杉元と結婚するべきなんだということが、ずっと以前からわかっていた。
でも、杉元は戻ってこない。梅子を誰かが幸せにしてやらないといけない。
杉元の戻りを切望し続けた1年間だったんじゃないかな。
でも、彼は、その思いに見切りをつけなければならなかったのよね。
いわゆる、一大決心よね。
寅次はずっと梅子のことも、杉元のことも大好きだったに違いない。
そんな寅次は、戦地で命を落とすことになる。
寅次は杉元に、戦争が終わったら一緒に北海道に行こうと言っていた。
彼の心の中では、今も、3人が一緒にいるのよね。
寅次はそのまま息を引き取ったけど、その気持ち、3人はいつも一緒にいるという思いは、杉元がしっかりと引き継いだんだと思う。
梅子の目を直すために、杉元は寅次に教えられた通り、北海道に赴き、お金を手に入れようとしているのよね。
今、その思いをアシㇼパさんに伝えた。アシㇼパさんを演じた山田安奈さんが、この作品に関するインタビューを受けた際に「カント オㇿワ ヤㇰ サㇰ ノ アランケㇷ゚ シネㇷ゚ カ イサㇺ」――「天から役目なしに降ろされた物はひとつもない」という言葉に感銘を受けたって言われていたようなの。
この作品の中での主要なメッセージの一つかもしれないわね。
生きている限り、役目があるんだって。
アシㇼパさんは、なぜアチャが死ななければならなかったのか、真相をつきとめること、それが自分の役割だって。
こうして、アシㇼパさんと杉元は、それぞれの役割を果たすために、同じターゲット金塊を求めていくことになるの。
ところで、先のアイヌの言葉、AI君に、あえて直訳してみてって頼んでみたらこんなの帰ってきた。「天から授かったものは、一つも無駄にしてはならない」とか「天から与えられたものは、一つたりともうしなってはいけない」って、そんな説明をしてくれた。
狩りで獲った動物も、食べ物も、仲間の命も、自分自身の命も。
全部「天から預かっているもの」だから、軽く扱ってはいけない。そんな意味になるんだそう。
この物語、ママが苦手とするようなえぐいシーンも出てくるんだけど、それでもなんか引き込まれて、気が付けば、実写もアニメも全部見終えてた。
もしかしたら、作品の中の随所に描かれた、人が人として大切にしていかないといけないところが、しっかりと描かれていたせいなのかな。
今日も最後までご覧いただいて、ありがとうございます。


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