壊すために生まれたスティッチが、なぜ“心”を持つようになったのか──その鍵は、たったひとつの言葉と、一曲の歌にありました。
「オハナは家族。家族は見捨てない」そして、「アロハ・オエ」。
これは、誰にも愛されなかったスティッチが、はじめて“帰りたい場所”を見つけるまでの物語です。
アロハ・オエの歌が染みた黄昏の夜
サーフィンのあと、みんなが笑顔だった一日が静かに終わろうとしていた。浜辺のたき火、ナニがハンモックの上で小さく歌う「アロハ・オエ」──その音に、スティッチがしんみりと聞き入っている。
でもね、「アロハ・オエ」って、ただの“さようならの歌”じゃないのよ。
作ったのは、ハワイ王国最後の女王、リリウオカラニ女王。 彼女は王国を奪われ、幽閉されるという過酷な運命の中で、暴力ではなく、音楽と祈りで自分の想いを残そうとしたの。つまりこの歌は、“ただの別れ”じゃなくて、「もう会えないかもしれない誰かに、心を込めて手を振る」──そんな愛と誇りと祈りが詰まった歌なの。
優しい音色の裏に、「もうここには帰れないかもしれない」という覚悟と、愛するものへの惜別が響いている。その切なさと慈しみが、あの夕暮れの風景と重なった瞬間、スティッチの心のどこかに、じわーっと染みていったのかもしれない。
彼はああみえて歌詞の意味まで理解している可能性も。 “誰かを愛して、だからこそ手放す”という、どうしようもない優しさの記憶に、初めて触れたんじゃないかな。
自分が来てから、ナニとリロの生活はどんどん苦しくなっている。デイヴィッドにまで「お前のせいで二人がバラバラになる」と言われていた。
責められ、居場所がぐらつく中で、スティッチははじめて「自分が誰かの邪魔かもしれない」と感じ始めた。そしてそのとき、ナニの歌声や気持ちが、音にのって伝わってきた。
「愛していても、手放すことがある。悲しいけれど、それも愛の一部なの」って感じかしら。でも、それが、スティッチの心のドアをほんの少し開けたんだと思うの。
枕の下の“家族写真”──孤独な心が触れたぬくもり
翌朝、スティッチはリロの枕の下に、小さな写真を見つける。それは、リロとナニ、そして両親の、昔の家族写真だった。「雨の日のドライブだったの。」
そう言うリロの目には、ただの思い出じゃなくて、“守りたかった家族”への想いがにじんでる。そして彼女は、スティッチに問う。「家族はいるの?」
その問いに、スティッチは固まる。言葉にはならない。でも、その瞬間、すべての“壊す理由”が揺らぎ始める。
リロはさらに問いかける。「夜、泣いてたでしょ。家族が恋しいから? 物を壊したりするのは、さみしいから?」スティッチは答えない。でも、答えなくても伝わるものがある。
彼の心は、まだ“エゴ”で覆われていたかもしれない。でも、リロの言葉は、それを静かに溶かしていく。「うちは二人しかいないし、何にもないけど…家族になりたかったら、ずっといていいよ」
あんなに拒絶されてきた存在が、「いていい」と言われた。“選ばれた”んじゃない。“招かれた”んじゃない。「ここにいてくれるなら、私が家族にする」
そう言ってもらったんだよね。
「オハナ」の言葉が灯す、永遠のつながり
「オハナって知ってる? ハワイ語で家族。 家族はいつもそばにいる。オハナは家族。何があっても──」リロがスティッチに語りかける「オハナ」の言葉。
それは、スティッチがこれまでまったく触れたことのない概念だった。オハナ=つながり。 壊れても、離れても、忘れない。
「出ていくのは自由。でも私は忘れない。たとえいなくなっても、絶対忘れない」この“無条件の記憶”こそが、リロの愛の形。
スティッチにとって、「忘れない」と言われたのは初めてだったに違いない。だって彼は、作られて、逃げ出して、追われてきた存在だったから。
「壊すこと」でしか、誰にも触れられなかったのに──リロは、「思い出になっても、家族だよ」と言ってくれた。この瞬間、スティッチの“心”が生まれはじめたんじゃないかな。
「僕、迷子」──初めての自己認識
リロの言葉を聞いたあと、スティッチは森へと歩いていく。手に持っていた本は、『醜いアヒルの子』。そして、ページを開きながら、こうつぶやく。
「……僕、迷子」
このセリフこそが、スティッチに心が芽生えたことの“証”だと思う。今までは「壊す存在」だった。 でも今は、「自分がどこにいるかわからない」と感じてる。
それは、“居場所を求める心”が生まれたってこと。スティッチは、自分が「さみしい」と認識した。「家族が恋しい」とはまだ言わなかったけど、それを“感じてる自分”に気づいた。
それこそが、なにものかになる第一歩。「迷子」って、ただの方向音痴じゃない。 「帰りたい場所があるのに、道がわからない」ってこと。
そしてスティッチは、ようやく「帰りたい」と思える場所に出会ったんだ。それが──オハナだった。
まとめ|「忘れないよ」の力が、スティッチにもたらしたもの
スティッチは、「壊すために生まれた」存在。でも、リロはそんな彼に、「壊さなくてもいいよ」「一緒にいよう」「忘れないよ」と言った。
これは、武器を持ってない人間ができる、最強の“変化”の起こし方だったと思う。その一言が、スティッチの心に火を灯した。
「迷子だ」と感じた彼は、もう“心”を持った存在だった。そしてその心は、壊す力よりも、ずっと強かった──。オハナは、いつもそばにいる。 たとえ遠く離れても、忘れない。その約束があるだけで、人は強くなれるんだよね。
今日も最後までご覧いただいて、ありがとうございます。
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